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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

Amir Kabir Hotel

                       ≪十月三日≫   -壱-

   このあわただしく、騒々しかった”Amir kabir Hotel”も、今日がチェックアウトの日。
 今日は全国的に、日曜日。
 もちろんここイランでもだ。

   赤いカーテンを開けると、強い陽射しが飛び込んできた。
 (今、何時頃かな)
 ベッドに横たわったまま、身動きしないでジッとしているこの瞬間こそが、旅人にとってたまらなく嬉しい瞬間なのだ。
 その瞬間を味わっていると、楽しみを奪うようなことが頭を過った。
 (午後は現地人の昼休み)

   慌ててベッドから起き上がると、Post Officeへ向かった。
 もうここまで来ると、ゴール以降のことを考え始めていたのだ。
 田舎へ宛てての頼り。
 以前、ユーレイルパスを送るように言っていたのを、取り消す為だ。
 取り消すと言う言葉は、妥当では無いかも知れない。
 今日の便りには、パスは中止だが、200㌦の小切手を送って欲しい旨を記しているのだから。
 調子が良い。
 いつまで親に甘えているのだか。
 情けない話だ。
 しかし、ここまで来て欲が出てきた。
 ここまで来て、ヨーロッパを観ずに、日本へ帰っていいもんか。
 こんなチャンスは二度とないだろう。

   目的を達成する事は出来たが、目的を志半ばにしようと言うのだ。
 冬のヨーロッパを徘徊したい。
 そう思ったら、田舎に無心していたって言う訳だ。

                       *

   十一時半。
 ホテルに戻り、部屋のキーを戻し、パスポートを受け取る。
 チェックアウトを済ませ、食堂にて出発の時を待つ。
 朝とも昼ともつかない食事を取って、バスが出るまでの四時間をここで過ごそうと思ったのである。
 十三時。
 チェックイン。
 相変わらず、旅人でごった返している。

   そんな中、二三人の日本人旅行者を見つけた。
 その中の二人と話す機会が訪れた。
 二人とも顔は真っ黒。

       俺   「どこから来たの?」
       二人連れ「あっ、こんにちわ。アフリカへ行った帰りなんです。」
       俺   「二人連れ?」
       二人連れ「いえ、こっちで知り合っただけで、アフリカは一人でした。」
       俺   「アフリカか・・・是非行きたいもんだね。」
       二人連れ「アフリカは良いですよ。もう中近東の時代は終わったんじゃないですか。これからはアフリカの時代ですよ。」
       俺   「そうかね?」
       もう一人「治安は良くないですね。僕が泊まったところは、町から少し入ったところなんですがね。移動にはトラックが使われてるんですよ。途中たぶんゲリラでしょうか、襲われていて粉々になっているトラックを見ましてね。それが一日前に襲われたものらしくて、現地のやつらに聞きましたら、ニヤニヤ笑いながら”坊や、あのトラックは昨日、坊やが乗ろうとして乗れなかったトラックだよ!”なんて言うんですよ。ぞっとしましたね。」

       俺   「危険だって事だね。戦争の真っ只中って言う事だな。」
       二人連れ「それでも、町にいると割りと安全なんですけどね。どこもあんまり変わんないですよ。」
       俺   「・・・・。」
       もう一人「南京虫は必ずいますね。」
       俺   「その割りに、南京虫にやられた跡が残ってないね。」
       二人連れ「・・・・。もうあそこは御免だけど、今度は南米へ行って見たいな。あそこは良いらしいですよ。」

   どこまで信じて良いのやら。

                           *

   或る人が、或る事をしようとするだろ。
   それが、経験のないものにとっては、
   巨大な怪物となって、
   その人の前に立ちふさがってくるんだよね。
   その怪物って言うやつが、不安と言う見えない怪物なんだな。
   それが、この怪物って言うやつは面白いもんで、
   近づいていくと、かわいい顔しているのに
   離れれば、離れるほど恐ろしくとんでもない怪物に思えてくるんですよ。
   振り返って見てごらん。
   お前だって、心配だった中近東を
   とうとう、走破しようとしているではないか。
   通って来た道程を振り返って見てドウですか?
   かわいいもんでしょ。
   怪物はいたかも知れませんが、
   怖かったですか?
   我々は姿が見えないために、
   極度の不安を抱え込んでしまうのです。
   誰でも、見えない物ってのは警戒して当然だし、
   怖いもんですよ。
   だからといって、近づこうとしないのは
   この世に生まれてきた甲斐がないというものですよ。
   これは、旅だけではなく、人生にも当てはまるではないでしょうか。
   とにかく、行ってごらん。
   とにかく、話してごらん。
   とにかく、触ってごらん。
   ですよね。
   そうでしょ、皆さん。
   ”良いわね!私の夢ね。”
   ”くそー!俺もやりてーな。でも会社を辞めてまで行く、踏ん切りがつかないな。”
   ”理想ね。”
   ”うらやましいな”

   行動を起こしたものにとっては、
   もう既に理想でもなく、もはや現実なんです。
   そして、行動を起こさず、どうせ駄目さ!と、
   諦めている人にとっては、いつまでも、おそらく一生理想なんですよ。
   彼らは、一生”不安”と言うかわいい怪物に
   決して、近づこうとは市内のですから。
   そして彼らはこういうでしょう。
   ”あいつらは恐ろしいやつらだ、気が狂ってるんだ、近づかないほうがいいぞってね。”
   そして、自分に同調してくれる臆病な人たちと、
   仲間を作る事で、何も行動できない自分を正当化するのだ。
   仲間が増えれば増えるほど、ホッと胸をなでおろすのである。
   あ~~~~あ!なんて嘆かわしいことか。
   そんな事を言っている俺も
   ついこの間まで、おの仲間だったんだから。

                       *



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